BLOOM BACK BETTERの実践者
黒田 拓治(くろだ たくじ)
Practitioner of BLOOM BACK BETTER
Takuji KURODA
生まれも育ちも丹波市市島町。
2018年時点で、丹波市市島町北岡本の自治会長。
2014年8月の豪雨災害が発生する前から森林管理、そして豪雨災害発生後は「災害に強いまちづくり」の重要性を強く認識し、現在、自治会での森林作業を率いるほか、さまざまな活動に取組んでいる。
Born and raised in Ichijima-cho, Tamba City.
As of 2018, the community leader of Kita-Okamoto district of Ichijima-cho.
He has recognized the importance of forest management since before the August 2014 torrential rain, then the significance of establishing resilient communities. Currently, he is working on community-based forest management and engaged in other various activities.
丹波市市島町北岡本で森林管理を進めている黒田拓治さん。
2014年8月の豪雨災害が起こるよりも前から、「山の管理をしっかりしないと災害が起こるかもしれない」と考え、自治会長として住民主体の取組みを始めました。
その考え方の背景にある日本の森林の課題や、災害時に向けた備え、そして「災害に強いまちづくり」の考え方まで、面白いお話をうかがいました。
現在、どのような活動をしているのですか?
10月から4月にかけて、自治会で月に2回、午前中に集まって森林作業をしています。具体的には、倒れた木や、放置された木の長さなどをそろえて出荷しています。
森林作業は重いものを運んだり、急傾斜地で木を切ったりするため、なるべく若いメンバーが作業を担います。しかし、実際に作業に関わる以外にも、頑張りを褒めていただいたり、炊事をしてもらったりと、それぞれの役割を果たしながら、自治会全体で森林管理に参画しています。
自治会内で活動に登録しているメンバーは30名ほどですが、よく集まるのは7~8名、多い時に10名ほどです。プライベートを最優先してもらいたいので、参加できなくてもおとがめはなしですよ。楽しみながらやることが大切です。
伐採した木の出荷
伐採した木の出荷
間伐した木々はどこに出荷するのですか?
「丹波市木の駅プロジェクト」のストックヤード(一時保管所)です。1トン、つまり軽トラ2台分程度が6,300円で買い取られる仕組みがあるので、その売上で、皆でご飯やお酒を楽しむ会を開きます。飲み会のない月は日当として還元しますよ。
※ストックヤードに持ち込まれた木材は、薪ボイラーや薪ストーブの燃料として、消費者に販売されます。
森林管理を「楽しむ」仕掛けにはどのようなものがありますか?
高齢者や女性が頑張ってイノシシの焼肉等を調理してくれ、飲みにケーションの場をつくれるようにしています。また、山菜採りや木の実拾いなどの楽しみも増やしていますよ。
丹波市内にはイノシシやシカがたくさんいます。市内には針葉樹の人工林がとても多く、果樹が少ないことから、そういった野生動物のえさが山の中にありません。そこで、野生動物は山から人里に下りてきて農作物を食い荒らします。昔は獣肉といえばごちそうだったのに、近年は「害獣」扱いになっていますね。
「楽しみ」の話から、森林管理につながる話題が出てきましたね。獣害のほかに、森林管理が必要な理由はありますか?
山を適切に管理しないと、土砂災害につながるのです。
2014年8月豪雨災害の時、局地的な大雨が市島町を襲いました。その大雨は自然災害です。しかし、大雨により地盤がゆるみ木々が倒れ、大量の土砂や倒木が平地を襲ったことは、人災と言えます。なぜかというと、40年以上前に人工的に植えられた木々を私たちが正しく管理せず、放置してきたからこそ、あの土砂災害が発生したからです。
本来であれば、木を植えてから数年おきに、定期的に間伐・枝打ちをして森を整えるべきなのです。間伐をされていない多くの森で、もやしのような背の高い、頭でっかちの木々がお互いに寄りかかっています。そのような状態の木々が自分で自分を支え育つように整えてあげるのが、人間の仕事なのです。
ですから、今私たちが進めている森林作業は、一度整えたら終わり、ではありません。今後も無理なく楽しみながら、ずっと続けていくべき仕事なのです。
山を整える重要性を訴える黒田さん。山と災害の関係はどのようなものなのでしょうか?
放置された山で土砂災害が起こるメカニズムを教えてください。
長年放置された木は背がとても高く、頭でっかちなので揺れやすくなっています。揺れやすい木の上に激しい雨が降ると、雨粒が木の枝をつたって、地面の同じ場所に集中して落ちます。
また、頭でっかちな木が太陽の光をさえぎるので、地面に光が当たらず、地面を丈夫にする草や低い木も生えません。何も生えていない地面に直接大きな雨粒が落ちたら、それは大きい衝撃になりますよね。そうやって地面が削られると、簡単に山が崩れてしまいます。
私たちの家や農地は、そのような木々で覆いつくされた山に囲まれています。
なぜ森林が放置されているのですか?
昔のおとなたちは、数十年後、木々が成長したら儲けが出るぞ、と考えてたくさん 木を植えました。戦後は木材の需要が大きく、高価だったのです。私たちが幼い時 は学校が休みの日には山に入って、植樹や間伐、枝打ちを手伝わされたものです。
しかし、外国から安い木材が輸入されるようになると、林業は衰退しました。木の 価格が下がり、林業をする人の人件費すらまかなえなくなったからです。そうして、 森に入る人はどんどん減っていきました。
私たちが作業している森は、すべてが自治会の持ち物というわけではありません。細かく持ち主が分かれていて、たくさんの人が関わっています。各持ち主が森林管理をできればいいのですが、高齢だったり、作業をしてもお金にならなかったり、という理由で山に入れないため、しかたなく、自治会が代わりに作業を進めているのです。
黒田さんはもともと山仕事をしてこられたのですか?
いいえ。自治会全体で「森林管理をしていこう」と合意をしてから、講習などを受けてたくさんのことを学びました。2015年に始まった森林整備事業「丹波市木の駅プロジェクト」という活動では、災害で流出した木の処理を行っていると聞き、活動に参加することにしました。
この活動に参加するにあたって、チェーンソーを正しく使いこなせるようになるための基礎などを学び、山に入る準備を進めました。さらに、自治会が持っている山を森林登録することで、作業ができるようになったのです。この「丹波市木の駅プロジェクト」が前述のストックヤードの運営を担っており、間伐材を買い取っています。
根が幹を支えられず倒されている様子
頭でっかちの木々により日が通らない森
黒田さんをはじめ、自治会はどのような経緯で森林管理を始めたのですか?
2014年の豪雨災害が発生する前から、周辺の山々の状態とその課題を意識しており、森林管理の取組みを始めようとしていました。当初の計画は、県の補助金を用いて森林組合に大規模間伐を依頼するというものでした。その間伐に向けて、自治会が住民や山の持ち主から同意書を取り付けていました。
同意書を集め、さぁ始めようか、というタイミングで、豪雨災害が発生しました。
豪雨災害によって、大規模間伐はなくなってしまったのですか?
いいえ、豪雨災害の後に大規模間伐を進めてもらいました。対象となったのは70ヘクタール(自治会所有20ヘクタール、個人所有50ヘクタール)もある土地です。大規模間伐では、まず間伐材を森から持ち出すための作業道の整備を進めます。その後、ある程度の間伐をしてもらったら、その作業は終わりです。
その後の作業道のメンテナンスや倒れた木々の処理、残工事など、様々な作業はずっと続きます。そういった作業により、新たな災害を生み出さないようにするのが、今われわれ自治会が取組んでいる仕事です。
「森林管理が必要」であることの背景には、戦後に人工林が増え、その人工林を人々が管理してこなかったことがある、と黒田さんは言います。黒田さんによると、2014年8月の豪雨災害は「自然災害」と「人災」が組み合わさって起こったこと。黒田さん自身の災害の体験は、どのようなものだったのでしょうか。
2014年8月16日から17日にかけての夜、見渡す限り、何もかもが水に覆いつくされ、大きな池のようになっていました。道路も川も、山も田んぼも、水が山道から流れてきて、そのような状態になっていたのです。ここまで大量の雨が降るものなのか、と驚くばかりでした。
自治会長として、災害時にどのようなことをする必要があるのですか?
台風が近づいている時は、その進路を注意深く観察し、公民館を開錠するかどうかを決めます。指定避難所は私たちの地域からは遠く、途中で水没する場所があり、川を越えるのも危険なため、公民館に避難してくる住民がいます。特にうちの公民館は地域の中で最も安全な場所にありますから。
安全なだけでなく、「公民館に行けばご近所さんに会える」と思ってもらうこと
が大事だと思っています。公民館に行けば皆に会える、ワイワイ楽しく話ができ
る、ということを住民が知っていれば、「避難」も心地よいものになりますよね。
指定避難所は設備が整っていて広い代わりに、避難してくる住民も多種多様です。知らない人の隣で過ごさないといけないかもしれません。公民館は指定避難所ではないため、行政から資材をもらうなどの支援はありませんが、卓球をしたり、囲碁ボールをしたりビールを飲んだり、楽しむことができる場所になっています。避難する時にそれぞれの住民が何らかの物資を持ち込めばいいのですから。
「避難を楽しくする」というのは興味深い考え方ですね。公民館を避難所として開放する以外に、自治会長としての仕事はありますか?
台風が来そうな時には地域にある3つの池を事前に開栓し、放流するよう県から指導されています。ため池の貯水量は全部で3,000立方メートルほどで、放流に1日半から2日ほどかかる規模です。徐々に放流して、下流に流れる水の量を調整します。放流をする時には、栓にごみがひっかからないよう、1日に3回ほど点検もします。
しかし、放流を進めている間に台風の進路がずれるなどして、雨が降らなくなったら大変です。水がなければ米の収穫ができなくなるので、今後の田んぼ作業のために、水を確保しておく必要があるからです。そういったことを考慮して、難しい判断を下さないといけないため、とても面倒な作業です。しかし、この作業により下流地域(丹波市から県境を越えて京都府福知山市)の水害リスクを軽減できるので、大変重要なのです。
自治会長である黒田さんが他の地域、しかも他県の水害リスクのことも考えているのですね。
地元地域で防災の取組みはされていますか?
災害に対する備えを呼びかけ、進めています。例えば公民館内の舞台用の台を非常用ベッドとして使えるようにしたり、仮設ベッドを導入したりしています。実は、備蓄はしていません。保存食など、非常用の食料はあまり美味しくありませんから。そんな食べ物を無理やり食べてストレスをためるくらいだったら、備蓄をするよりも、集まった住民が各自で持ち寄ればいいのです。
備える一方、災害対応で無理をしないようにしよう、という点は、自治会内で合意しています。大雨が降る中で土のう袋を積むなどの作業は、高齢化している住民にとって負担になります。そのような災害対応をしなくてもいいように、災害が起こる前の備えを充実させよう、という考え方を持つようにしています。
黒田さんは、森林管理にとどまらず、丹波市全体を「災害に強いまち」にすべきである、という強い意識を持っています。具体的にはどのような考え方なのでしょうか。
災害に強いまちづくりについて教えて下さい。
丹波市は、日本の中でも他に類を見ない「災害に強いまち」になり得る可能性が十分にあると私は考えています。なぜなら、丹波市には火山がありません。市の真下に活断層も見つかっていません。つまり地震の影響は少なく、津波もありません。予測不可能で不可避なこれらの災害がないということは、丹波市はとても安全なまちのはずです※。
ただ、放置された森林が多いことから、2014年の豪雨災害が発生しました。つまり、森林管理さえ正しく行えば、これ以上に安全なまちはない、という風に私は考えています。
※放置された森林と2014年の豪雨災害の直接的な関係はまだ証明されていませんが、多くの人がそういった森林の存在により土砂災害の影響が大きくなると指摘しています。
スタディツアーで丹波市を訪問する人と、どのようなことに取組みたいですか?
一緒に森林作業をして、丹波を安全で住みやすいまちにしていきたいと思っています。ただ手伝ってもらうだけではなく、一緒に前に進みながら、それぞれの住むまちの安全を振り返って考える機会にしてもらえたら、と思います。そうやって自分が住むまちの安全について考えたら、きっと、子育てをするなら、もしくは会社を立ち上げるなら、丹波市がいい!と思ってもらえるはずです。
過去の災害について学ぶと、災害の傾向が見えてきます。今、各地で起こっている現象や災害を見ると、今に南海トラフ巨大地震が発生するだろう、という危機感が芽生えます。多くの専門家が警鐘を鳴らしていますが、そういった情報を目にした時に、行動を起こせるようになっていることが大変重要なのです。
私は豪雨災害を経験し、また、その後、防災の専門家の講演を聞くなどして情報を集め、今すぐ安全なまちづくりに向けた行動を起こすぞ!と決意しました。また、丹波は安全なまちになることが可能だと信じています。小さな積み重ねで、安全で住みやすいまちづくりを目指します。
これから丹波市を訪れる人へのメッセージを下さい。
丹波で森づくりを頑張っている人たちは、エネルギーや環境、防災、まちづくりについて真剣に考えています。南海トラフ巨大地震の被害想定を受け、直接の被害がなくとも停電などの影響が出ることを想定し、自分たちがすべきことを考えています。
私は今、間伐材を使った薪の発電機やボイラーなどを作りたいと考えています。これらの機材は、世界中のあらゆる地域や施設で必要な設備です。もし量産化できるようになったら、丹波市の新たな産業になりますよね。そうすると雇用を創出できます。そして何より、間伐材の活用で森林管理が進み、同時にエネルギーの確保が可能となり、安全なまちづくりにつながる。そんな夢が膨らんでいます。
大学だけ、や企業だけ、そして自治会だけ、の単体ではなし得ないことも、協働で実現できるかもしれません。スタディツアーを絶好の機会として、多様なバックグラウンドを持つ若者に丹波に来てもらい、一緒に安全なまちづくりについて考えていきたいと思います。
社会のあらゆる課題は防災とつながっています。災害のリスクを無視してまちづくりを進めるよりも、安全なまちをつくる方が絶対に簡単なはずです。災害を経験した私たちだからこそ、同じ過ちを繰り返さないようにしたいのです。そして、丹波市の外から訪問してくれる人々と共に、その実現を目指していきたいと思います。